IEの終焉に寄せて
取締役(CTO) 木達 一仁かねてより予告されていたとおり、2022年6月15日(米国時間)、Microsoftは同社のWebブラウザであるInternet Explorer(以下「IE」)のサポートを終了しました。これを踏まえ、当社ではIEを使った検品を終了。今後、IEをサポートブラウザに含めたWebサイトの構築や運用は原則お請けしかねますので、あらかじめご了承ください。
もとより、IEを用いた検品は社内で減少傾向にあり、直近でも数える程度しかないことは確認していました。とはいえ、かつてWindowsの標準ブラウザとして高いシェアを誇った経緯や、お客様からのご要望がゼロではない事実を尊重し、IEによる検品の終了を前倒しはせず、あくまでベンダーによる正式なサポート終了を待った格好です。
いっぽう社外に目を向けますと、一部の報道で企業や官公庁における対応の遅れが指摘されており、その影響が懸念されます。StatCounterの統計によれば、今年5月の時点でIEは国内デスクトップブラウザで2.56%のシェアを有していました。残存するIE環境なりIEユーザーが、いつサイバー攻撃やサイバーテロの標的とされるか知れず、1日も早い完全な「脱IE」が望まれます。
さてこのIEの終焉、皆さまはどのような感想をお持ちになったでしょうか。1995年のリリース以来、27年もの長きに渡り使われ続け、一時は「独占」と表現しても過言ではないほどの高いシェアを有したブラウザだけに、長くWeb業界に携わり昔をよくご存じの方ほど、一種の感慨を覚えていらっしゃるのではと察します。
私自身、その例外ではありません。とりわけ過去28年間のブラウザシェアの変遷を視覚化した動画を拝見しますと、『平家物語』の有名な一節「祇園精舍の鐘の声、諸行無常の響きあり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす。」を思い起こさずにはいられません。
私は入社して程なく、Web標準準拠の旗振り役を社内で担うようになったのですが、IEには大変悩まされました……いや率直に申し上げるなら、苦しまされました。CSSハックに依存せざるを得ない時期が長く続きましたし、バージョン8のリリース直前、デフォルトの描画に用いるモードが標準モードと互換モードのどちらになるかで揺れた際は特に、たいそうストレスを溜め込んだ記憶があります。事の顛末は、Web標準Blogの以下の記事に詳しくあります:
ともあれ、MicrosoftがWeb標準を尊重しつつ相互運用性の最大化に向け舵を切ったのは、皆さまもご存じのとおりです(Microsoft's Interoperability Principles and IE8 | Microsoft Docs)。個人的にはブラウザベンダーのみならず、世界中のWeb制作者が標準準拠を当たり前のこととして取り組むよう変化し始めた分水嶺として、IE8のリリースが業界全体に与えたインパクトは決して小さくなかったと捉えています。
Webが誕生して今年で33年あまり。その歴史においてIEの存在はあまりに大きく、業界はもとより社会全体に与えた影響は計り知れません。振り返ってみれば、IEの歴史とはすなわちWebにおける相互運用性の獲得・向上の歴史であり、開発者や関係者の皆さまに対しては、改めて感謝と慰労の念を抱かざるを得ません。お疲れさまでした、そしてありがとうございました。
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