アクセシビリティ「試験」その前に
アクセシビリティ部 ゼネラルマネージャー 中村 精親アクセシビリティの試験をお願いしたい、というご相談をいただくことがあります。しかし、そもそもなぜ試験を実施するのでしょうか。
試験は結果の確認
依頼した背景を確認するとよくあがってくるのは、「実施を求められているから」という理由です。
また「結果を公開しなければならない」という場合もあるようです。
このようなご依頼で悩ましいのは、試験の実施=よい結果を求めていることが多いことです。
本来、試験とはできているかどうかを確かめるものであり、よい結果を確約できるものではありません。
そもそも問題がないことがわかっているのであれば、試験など必要ないはずです。
何ができていないかを把握する
ですので、仮に「試験」がご要望だったとしても、状況をお伺いした上で現状把握をおすすめすることが多々あります。
つまり、今何ができていて、何ができていないかを認識することが大事である、ということです。
このようにお伝えすると、「試験」でもできているかどうかが把握できるので、問題を認識できるのではないか、何が違うのだろうか、と考える方もいらっしゃると思います。
もちろん、そのとおりなのですが、「試験」というものは一般に形式が決まっており、Webアクセシビリティの試験においても、通常みなさまが必要とされているものは実施方法や必要とされる結果の形式が決まっているものとなります。
そのため、その形式で「試験」を実施すると、現状を知るためだけには不必要な工数がかかってしまうことがあるのに加え、逆に必要な問題を検出できない可能性が生じます。これは「試験」の形式においては、ひとつの基準で問題がひとつでも見つかった場合、その項目は「不適合」となるためであり、それ以降その項目を確認する必要がなくなるためです。
こうした理由から、「試験」ではなく、より効率のよい方法での「現状把握」を実施することをおすすめしているのです。
早い段階から確認する
こうして費用や工期を抑えながら現状把握をすることで、実際の改善活動に予算や時間をかけていただくことが重要であると考えています。
特に、現状を把握すると認識できることのひとつが、前工程(上流工程)での問題です。アクセシビリティの試験を要望されるお客様の多くは、コーディングでの修正が必要である、と考えておられ、問題が発見されたら制作会社に修正を依頼する、ということを想定されています。もちろん、そのような対応も必要です。しかしながら、アクセシビリティの問題の多くは実はビジュアルデザインの段階やそれよりも前の段階、例えば要件定義や画面設計の段階で発生しているのです。
現状把握を実施すると、こうした問題の切り分けなどもできますので、状況を把握した上で、その後の対応を検討することができるようになります。これは「試験」とその結果だけではなかなか難しいことなのです。
関係者が知識を身につける
さて、ここまでの対応でいくつかの段階に問題が発生する(可能性がある)ことを認識しました。次に直面するのは上流で起きている問題を修正することの難しさです。
この問題に対応するためには、みなさまの組織が何を根拠に、いつまでに、どのような進め方で、アクセシビリティを改善しなければならないか、を把握する必要があります。
そのような情報は当社のアクセシビリティBlogのような情報源をはじめ、インターネット上で多数見つけることができますが、担当者のみなさまの多くはアクセシビリティだけを専門に担当されているわけではないかと思います。そこで、当社の社内教育支援サービスなどを利用して、短い時間でまとまった知識をつけていただくことをおすすめしております。
当社にはアクセシビリティの専門部署がございますので、常に幅広い視点から最新の情報を含めた教育プログラムを提案させていただきます。
問題を認識し、必要な対応を把握してから行動する
Webアクセシビリティに関する動向も昨今は国内外ともにいろいろと注目すべきところが増えてきました。例えば最近ですと、国外ではWCAG 2.2の策定に関する動き、国内ではJIS X 8341-3改正の動向、日本版VPAT、デジタル・ガバメント推進標準ガイドラインにおけるWebアクセシビリティに関する言及など、さまざまな内容に目を向けておく必要があるといえます。
こうした国内外の動向を前提に、みなさまの組織の現状を踏まえて、どのような対応を進めるのがよいかを考えることが、アクセシビリティの改善には重要なのです。
ということで、あらためて本コラムのテーマに戻りますが、「試験」をしなければ、となりましたら、本当に今「試験」が必要なのか、アクセシビリティ向上のために何をすべきなのか、を今一度検討いただき、その上で行動に移っていただくことをおすすめいたします。
当社では進め方の部分から、ちょっとしたことの相談などでも、コンサルティングのサービスとして提供しておりますので、お悩みの際にはまずは気軽にご相談くださいませ。
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