Web3とWeb 3.0を巡る混乱
取締役(CTO) 木達 一仁先日、Web3とWeb 3.0についての興味深い記事を読みました。CNBCに掲載されたWeb inventor Tim Berners-Lee wants us to 'ignore' Web3がそれで、ポルトガルのリスボンで開催されたイベント「Web Summit 2022」におけるTim Berners-Lee氏の発言を紹介しています。Berners-Lee氏の考えを私なりに約しますと、
- ブロックチェーン技術は次世代のWebを支える主要な技術ではない
- ブロックチェーンとその周辺を意図するWeb3は、Webとはまったく異なる
- 多くの人々がBerners-Lee氏の推進するSolidプロジェクト(≒Web 3.0)をWeb3と混同している
ということのようです。これらの指摘は、Webの発明者として古くからBerners-Lee氏に対し個人的に尊敬や感謝の念を抱いてきた経緯を差し引いても、納得感があります。そのいっぽうで、Web3とWeb 3.0の混同については、致し方ないようにも感じます。
Web3とWeb 3.0、そもそも表記が酷似しているわけですが、どちらも統一的な定義が存在するわけではないと認識しています。またWebのバージョン番号という、厳密には存在しない架空の数字を持ち出すことで新奇性を生み、耳目を集めようとしている点で五十歩百歩だと思うのです。
そして昨今のWeb3(ないしWeb 3.0)関連書籍の流行が、状況の悪化に拍車をかけているようです。私自身、何冊か読んでみたのですが、書籍によって表記やその言葉の指し示す内容が微妙に異なっており、まさに明確な定義の存在しないバズワードとして、社会に混乱をもたらしているような印象を受けます。
そこでやはり大事なのは、言葉の定義にこだわりつつも、定義が定まらず混乱の収束しないうちは特に、変化の大局に目を向けることではないかと思います。冒頭で紹介した記事には、次のようなBerners-Lee氏の発言が記されています:
You have to understand what the terms mean that we’re discussing actually mean, beyond the buzzwords.
(私たちが議論している言葉の意味を、流行語の範疇を超えて、ちゃんと理解する必要がある)
ブロックチェーンとその周辺技術にしろBerners-Lee氏のSolidプロジェクトにしろ、特定のプラットフォーマーに情報や富が集まりやすい、これまでの行き過ぎた中央集権的な構造なり仕組みを反省し、より分権的で利用者自身のコントローラビリティが高いものへと作り変えようとする試みと私は認識しています。
そうであるならば、どちらが「Web」という言葉を冠して呼称するにふさわしいかはさておき、それぞれの目指すゴールや長所・短所、事例などについて、(関連用語の明瞭な定義とともに)正しい理解が広まってほしいと思います。そうでなければ、紛らわしい表記なことこのうえないWeb3とWeb 3.0を巡る混乱は、今しばらく収まりそうにありません。
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