認知メカニズムを理解することの「副産物」
執行役員 UXリサーチャー 潮田 浩来る1月27日(金)に「続・認知メカニズムに基づくデザイン改善の実践方法」と題したセミナーを開催いたします。このセミナーは、2021年1月に開催した同タイトルのセミナーの続編として、前回に引き続き、人間の認知メカニズムの理解・応用にフォーカスを当てながら、デザインの改善をどのように実践していくかについて解説いたします。
「認知メカニズムに基づくデザイン改善」と聞くと、例えば、使いやすい、見つけやすい、わかりやすい、不安を生じさせない、ストレスが少ない等、優れたUXをもたらすデザインを、ユーザーの認知メカニズムを理解することによって実現できるようになると先ずお考えになるかと思います。もちろん、認知メカニズムを理解・応用しようとすることの主たる目標は優れたUXの実現であり、実際、いま世の中にある優れたUXのWebサイトやアプリの多くに、人間の認知メカニズムを応用したデザインが採用されています。
ところで、前回のセミナー開催前に執筆した関連コラム「デザイン改善の議論はなぜ停滞しやすいのか?」では、ユーザーの認知メカニズムを考慮しながらデザイン改善の議論を行ったほうがよい理由として、以下のポイントを述べました。
- デザインの改善検討において、「具体的な改善案」や「ビジュアルデザイン・レイアウトの変更」ばかりを議論してしまうと、本来解決すべき本質的な問題が置き去りにされたり、改善案のアイデアがすぐに底をついてしまい、デザイン改善活動が停滞してしまいやすい
- ユーザーの認知メカニズムを理解・応用したうえでデザインの改善検討を行うことで、ビジュアルデザインやレイアウトの変更のみに終始してしまわない「幅広い・柔軟なデザイン改善案」を検討できるようになる
つまりそれは、実際には様々なビジネス要件やシステム上の制約などがあって、単純なデザイン改善案を採用するわけにはいかない状況においても、ユーザーの認知メカニズムを理解・応用しながらデザインを行おうとすることで、デザイン改善活動の実現性・継続性を高めてくれるという「副産物」がもたらされるとも言えるかと思います。
「副産物」という視点では、実は他にも様々なものがあります。例えば、人間の認知傾向の一つとして「自分の仮説(先入観)を持っていると、その仮説を肯定するために都合のよい情報ばかりを無意識的に集めてしまう」というものがあります。これは一般的に「認知バイアス」と呼ばれていますが、例えば、ショッピングサイトなどでユーザーが最初に目にする商品が「安いけど、品質はそこまでよくないもの」ばかりであったとき、ユーザーは「このサイトは品質の高いもの・高価なものは扱っていない」という先入観を持ってしまい、実際には高価で品質のよい商品がそのサイトにあり、その情報が画面上に出ていたとしても、ユーザーはそれを見落としてしまいがちになる等の行動傾向は、認知バイアスに該当します。
では、この「認知バイアス」という認知傾向を理解することの副産物とは何でしょうか。その一つとして、ユーザーにサイトを使ってもらうことによってデザイン改善を行うユーザビリティテストを実施するときに、「デザインを作る側の立場の人が、ユーザーの声を聞くときの適切な心構えを持てるようになる」ことが挙げられるかと思います。
ユーザビリティテストでは、どんなに作り手が熟慮したデザインであったとしても、(残念ながら)ユーザビリティ問題が発見されたり、ユーザーから辛辣なフィードバックが聞かれてしまうことが多々あります。そこで発見された問題点を改善することこそが、ユーザビリティテストを実施する目的ではあるはずなのですが、デザインを作った立場の人にとっては、その発見事項は「自分の仮説と異なるもの」「都合の悪いもの」であるため、どんなに貴重な意見であっても、その解釈を捻じ曲げてしまったり、そのユーザーが特殊だったのではないかと考えてしまいやすいという認知バイアスが生じてしまいます。ではそのようなとき、「認知バイアスという認知傾向を、ユーザーだけではなく、自分たちも持っている」ということを、デザイン改善議論を行うメンバー間で共通認識を持てるようになるとどうでしょうか。ユーザビリティテストの結果がどんなにネガティブな内容であったとしても、それを「受け止める姿勢」が変わるため、感情的ではなく、建設的な議論がしやすくなります。その結果、発見された(貴重な)ユーザビリティ問題を過小評価することなく、必要な改善アクションを適切に導けることに繋がります。つまり、人間の認知メカニズムを理解しようとすることによって、「作り手側の認知メカニズム」をも理解することにも繋がり、「ユーザーの声をデザイン改善活動に最大限活用できるようになる」という副産物を生み出すと言えるかと思います。
1月27日に開催するセミナー「続・認知メカニズムに基づくデザイン改善の実践方法」におきましては、前回のセミナーと同様、人間の認知メカニズムの理解を行うことによる優れたUX実現の実践方法を解説いたしますが、併せて、それを理解しようとすること自体がもたらすいくつかの「副産物」についても、事例をもとに紹介していきたいと思います。したがいまして、Webサイトやアプリのデザインを自ら行う立場の方だけではなく、デザインのプロジェクトマネジメントや運用を行う立場の方にとっても、きっと有益な話となるものと考えております。
前回のセミナーとは異なる認知メカニズムや事例を取り扱いますので、前回ご参加されていない方でも問題なくご理解いただける内容となっております。ご多用中とは存じますが、みなさまのお越しをお待ちしています。
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