Web制作とレモン市場
取締役(CTO) 木達 一仁少し前に、とある英文のBlog記事が目に留まりました。タイトルは「The Market for Lemons」、日本語にするとレモン市場……恥ずかしながら、同記事を読むまで私はその言葉の意味を知らなかったのですが、経済学の分野ではよく知られた言葉のようです。野村證券の証券用語集にあるレモン市場の解説が非常にわかりやすかったので、以下に引用させていただきます:
商品の売り手と買い手に情報格差が存在するため、安くて品質の悪い商品(レモン)ばかりが流通し、高くて品質の良い商品(ピーチ)が出回りにくくなる現象のこと。レモンは皮が厚くて外見から中身の見分けがつかないことから、主に米国で低品質の中古車の俗語として使われている。
話を戻しますと、冒頭で触れた記事は、JavaScriptの偏重によってWeb制作がレモン市場化している、との問題提起と私は解釈しました。その主張の正当性はさておき大変興味深い内容で、他のBlogからの言及も(私の限られた観測範囲では、ですが)少なからず見かけます。ご関心があれば、ご一読をおすすめします。
さて、ここからが本題ですが、果たしてWebサイトの構築や運用は、実際にレモン市場化しているのでしょうか? 確かに制作物の品質のなかには、アクセシビリティや表示パフォーマンスなど、見た目には良し悪しの判断のつかない、まさに外見だけではわからない品質があります。
そしてWeb制作を発注される組織には、そのための専門部署や専属スタッフを擁していなかったり、Webに詳しいスタッフの乏しいケースが少なくないでしょう。つまり、受注側がJavaScriptを偏重していようといまいと、レモン市場化する余地は昔から存在してきたし、またすでにレモン市場化している可能性はあると考えます。
仮にレモン市場化が進めば、Web業界が衰退するのみならず、Webそのものの健全な発展を期待しにくくなくなります。ユーザーの身体的・心理的特性を問わず、また使用するデバイスや通信環境を問わずコミュニケーションを実現できるという、WebをWebたらしめるのに必要な品質をないがしろにするなら、当然の帰結です。
そのような未来を回避し、Web業界もWeb自体も健全かつ持続的に発展するためには、何が必要でしょうか。再び、野村證券の証券用語集にあるレモン市場の解説から引用します:
売り手は、買い手が商品の本質を知らないため、自分の売りたい商品が不良品でも良質な商品として売ろうとするが、買い手はそれが低品質の商品だと分かると次第に評価をしなくなり、さらに買い取り価格を下げるため、ますます不良品が多く出回る市場になってしまう。
買い手の側が商品の本質、Web制作で言えばWebコンテンツの満たすべき品質について理解を深めることが不可欠であり、同時に売り手もそれを推奨し支援することが、レモン市場化を避けるために必要なのだと思います。そして手前味噌になりますが、当社は制作物の品質向上と並行して、セミナーなどを通じお客様への情報共有を継続してきました。
Web制作を発注する側と受注する側とのあいだで、情報格差が完全に無くなることはないでしょう。ですが、それに依存したビジネスは遅かれ早かれレモン市場化を招き、Webの可能性を矮小化してしまいます。そうならないための取り組み、コミュニケーションがこれまでもこれからも必要なのだ……というのが、「The Market for Lemons」を読んだ私の感想です。
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