続・障害者差別解消法の改正とWebアクセシビリティ
取締役(CTO) 木達 一仁内閣府が行った障害者に関する世論調査(令和4年11月調査)によると、一般の方への周知度は未だ24%にとどまっている障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律、いわゆる「障害者差別解消法」。その改正については一昨年、「障害者差別解消法の改正とWebアクセシビリティ」でお伝えしていますが、本コラムはその続編です。
去る2月21日、Webアクセシビリティ入門セミナーの2023年版をオンラインで開催、私は講師を務めました。2023年版と言っても、ほぼ毎年のように実施している定番のセミナーですから、内容的には昨年のもののマイナーアップデート版です。
しかし質疑応答については、昨年までと顕著な違いがありました。といいますのも、改正障害者差別解消法(以下「改正法」)に関する質問が相次いだのです。時間中、「どこまで対応すべきか」「すべきことや必須の内容は」といったご質問をいただきました。
改正法の施行が近づいてきたからなのか、「Webアクセシビリティの対応が義務化する」「アクセシビリティのガイドラインであるWCAGのレベルA以上を満たすことが求められる」といった触れ込み、セミナー等の宣伝を見かけます。
私のセミナーで改正法に質問が集中した背景の一端に、そういった触れ込みの存在があったかもしれません。しかし、法律の全文を読むと(それほど時間はかかりませんので一読をオススメします)、「Webアクセシビリティ」という言葉はもちろん、「WCAGのレベルA以上」などの具体的かつ詳細な話は出てきません。
合理的配慮の提供に関し、事業者においてこれまで努力義務だったのが法的義務に変わる点は、確かに改正法の大きなポイントです。その意味ではますます、Webアクセシビリティに取り組む意義、必要性は高まると言えますが、とはいえ先述の触れ込みは不正確、控えめに言って論理の飛躍があると私は思います。
Web担当者である皆様には、合理的配慮の提供ばかりでなく、環境の整備に注目していただく必要があります。あいにく当社が提出したパブリックコメントは反映されませんでしたが、今月14日に閣議決定されたばかりの障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針から、一部引用します:
法は、個別の場面において、個々の障害者に対して行われる合理的配慮を的確に行うための不特定多数の障害者を主な対象として行われる事前的改善措置(施設や設備のバリアフリー化、意思表示やコミュニケーションを支援するためのサービス・介助者等の人的支援、障害者による円滑な情報の取得・利用・発信のための情報アクセシビリティの向上等)を、環境の整備として行政機関等及び事業者の努力義務としている。
以前の基本方針(平成27年2月24日閣議決定)と比べ、表現こそ変化しているものの、情報アクセシビリティの向上が行政機関等と事業者の別を問わず「環境の整備」の一環として求められている点に変わりはありません。そして情報アクセシビリティは当然ながら、Webアクセシビリティを含みます。
そういうわけで、事業者視点では合理的配慮の提供の法的義務化のほうに目が行きがちかもしれませんが、ことWebアクセシビリティの向上に関しては改正法の施行前も施行後も、環境の整備に軸足を置いて取り組んでいただければと思います。なお、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(令和5年政令第60号)により、改正法の施行は来年4月1日からとなります。
最後に……もとよりWebは、さまざまなユーザーがさまざまな状況で、さまざまな方法を用いアクセスするまで社会に広く浸透、普及しました。法令遵守、コンプライアンスも大切ですが、誰もが使うものだから誰でも使えるようデザインすべきという、ごく当たり前の動機に立ち返ることも、合わせて必要ではないでしょうか。
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