脅威ではなく機会としての生成系AI
取締役(CTO) 木達 一仁私にとってAI、人工知能といえば、SF作家のアーサー・C・クラーク氏が『2001年宇宙の旅』に登場させたHAL 9000のイメージです。原作をお読みでなくても、矛盾した指示が発端となり人間に反旗を翻したHAL 9000のことを、スタンリー・キューブリック氏が監督を務めた映画でご存知になった方は少なくないでしょう。
HAL 9000のような、人間と自然に会話できるAIが登場せぬまま、現実世界の2001年は過ぎ去りました。しかし昨今、ChatGPTに代表される生成系AIが、にわかに脚光を浴びています。今やChatGPTの名前を見ない日はないというくらい、生成系AIのニュースが日々あふれています。
生成系AIとは文章や画像、動画などのコンテンツを自動的に生成するAI技術のことで、自然なチャット形式でコンテンツが得られるOpenAIのChatGPTは、その代表格です。生成されるコンテンツが正確である、もしくは意に即したものであるとは限りませんが、過去の類似のツールやサービスと比べ、その性能は驚異的です。
あまりに驚異的ゆえ、「生成系AIが人間の仕事を奪うのでは」といった論調の記事を、少なからず目にします。新たな技術が登場しては社会に浸透するたび、それまであった仕事が消えてなくなったり、なくならないまでも仕事の中身が変化するようなことは繰り返されてきましたから、その種の指摘には一理あるでしょう。
いっぽうでそれを生成系AIの負の側面、脅威として必要以上に煽るのは、いかがなものかと私は思います。マネジメントの分野で著名なピーター・ドラッカー氏はかつて、「変化を脅威ではなく機会として捉えなければならない」という言葉を残しました。今こそ業種・業界を問わず、この言葉を実践すべきではないでしょうか。
Webデザインの文脈で言えば、確かに手書きのラフスケッチからWebページを瞬時に生成するデモンストレーションは驚異的です。この技術が一層進化した暁には、Webデザインのかなりの工程が機械化され、人間のかかわる必要はほぼなくなるという、当社のようにWebデザインをビジネスにしている立場からすれば悲観的な想像も可能。ゆえに、生成系AIを脅威としても捉えてしまいがちです。
しかし程度はさておき、似たようなことは便利なデザインツールやフレームワーク、あるいはCMSやWebサービスが登場する都度、以前から言われてきました。それでも100%ないしそれに近しい機械化に至っていないのは、機能的価値だけならまだしも、それに情緒的価値を組み合わせたトータルな価値提供を機械化することが困難であり、人間による判断や調整がWebデザインに不可欠だからではないでしょうか。
過去に起きた変化と、今まさに現在進行形で起きている生成系AIの隆盛とは、同列に語れないかもしれません。それくらい、生成系AIは特異な存在と認識しており、また動向の変化の激しさが、将来の見通しを立てにくくしています。上述の私の仮説の正否はさておき、この局面において重要なのは、Webデザインにおいても生成系AIを脅威ではなく機会と捉えることです。
具体的には、デザイン中の各プロセスにおいて生成系AIを積極活用することで効率や生産性の改善を促進できます。それによって時間的・金銭的コストを抑えながら、以前と同等ないしそれ以上の品質のデザインを実現できるでしょう。その継続的な実践を通じてこそ、生成系AIとの共存が不可避の時代にあってなお、レディメイドとオーダーメイドで書いたような存在意義を維持できると信じます。
すでに社内では、AI活用に関するガイドラインを策定済みであり、またAIコンテストの開催が告知されるなど、具体的な取り組みが進んでいます。生成系AIのさらなる活用に向け、全社を挙げて邁進していきます。
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