Webサイトの動的平衡を実現する存在としてのデザインシステム
エグゼクティブ・フェロー 木達 一仁「複雑なものには生命が宿る」とは、文化人類学者として知られたGregory Bateson氏が遺した言葉だそうです。そもそも生命とは何か……という難解な話はいったん脇に置いておくとして、生命とは極めて複雑なシステムからなると認識していますし、それゆえ複雑なものに生命的な特性を見出すのは、自然なことに思えます。
翻って、Webサイトはどうでしょう。果たして、私たちがそれに生命的な特性を見出せるほど、複雑な存在でしょうか?30年以上前に作られた世界最初のWebページと比べるなら、基本的な技術スタックこそ大きく変わっていないものの、昨今のWebページ、またその総体としてのWebサイトは非常に複雑なつくりをしています。
複雑なのは、つくりだけではありません。コンテンツは日々更新され、あるいは新規に追加され、時には削除もされます。また、数年おきにデザインや導線などを刷新するリニューアルが行われます。一連のプロセスを新陳代謝と捉えるなら、それはまさに生命的です。そして作る側としてWebサイトに携わる人々も、それを利用する側の人々も、移り変わり続けるのが常でしょう。
従い、その複雑さをもってWebサイトには生命的特性がある、と考えることはできそうです。ところで、生命とは何かという問いに関連して私がよく思い起こすのが、動的平衡という概念です。自著のタイトルにその言葉を用いたことで、動的平衡を一躍有名にした生物学者の福岡伸一氏は、「生命とは何か?そう問われたら、私は、動的平衡である、と答えたい。」と記しています。
動的平衡とは、絶え間ない流れの中でバランスが取れた状態、と説明されます。考えてみればコンテンツもデザインも、それを実装するための技術も関係者も、すべてが絶え間なく変わり続けるなか、Webサイトにはそのサイトを運営する組織に固有の「らしさ」を安定的に発信し続けるべくバランスを保つ……つまり、動的平衡の実現が期待されていると言えます。
そのような考えに至って、Webサイトにおける動的平衡を維持する意義や必要性が以前より大きくなってきたからこそ、その目的達成に相応しい手段としてのデザインシステムが、近年注目されるようになったのではないかと思うようになりました。
Figmaに代表されるデザインツールの進化は目覚ましいものがありますし、それら新興のツールを念頭に、Webデザインのワークフローも進化を余儀なくされています。そのような変化がデザインシステムを注目の的にしたのは確かだと思いますが、しかし社会や経済環境の変化が激しさを増すなか、いかに上述の動的平衡を実現するかという命題こそ、デザインシステムに対するより本質的なニーズではないでしょうか。
加えて、デザインシステムで扱う内容については抽象度(抽象的か具体的か)と、作り手の体験(DX:Developer Experiece)と使い手の体験(UX:User Experience)のどちらに寄った内容かという2軸・4象限に基づき整理するのが良さそう、と考えています。すべての象限をカバーするべくデザインシステムを構成することで、より堅牢に動的平衡を実現することができるイメージです。
つらつらと最近デザインシステムについて思うところを述べてきましたが、これを踏まえ、従来ブランディング強化のためのデザインガイドライン 解説セミナーとそろそろ知っておきたいデザインシステムに分けてお伝えしてきた内容を見直し、単一のセミナーとして改めて皆様に解説をできればと考えています。今年10~11月の開催を目処に検討を進めておりますので、続報をお待ちください。
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