自動化の民主化:AIコンテストが切り拓く未来への道
取締役執行役員(CIO) 山下 徹治ミツエーリンクスでは2018年から生産性向上や品質向上をもたらすツールとしてRPAを積極的に活用してきました。RPAは定型的なものを繰り返し処理することに長けている一方で、非定型で構造化されていない情報を処理するのは苦手で、自動化するためには条件分岐を洗い出して力技で設定していく必要があります。RPAに携わる多くの人は、いつかAIがこの複雑な処理を自動処理できるようになるときがやってきて、自動化は次世代へ進むだろうとAIの進化に期待していました。
かく言う私もその一人で、OpenAIからGPT3が発表された2020年7月には進化に驚き、いよいよその時が近づいてきたと胸を膨らませましたが、正直なところ、それでも業務で使えるレベルになるまでにはあと4,5年かかると予想していました。しかしながらその予想は見事に外れ、予想よりはるかに早く、しかもはるか先まで進んでしまったという印象です。自動化は完全に次世代のフェーズに進み、いよいよ誰もが自動化を自分のものとできる「自動化の民主化」の時代になったと思います。
ミツエーリンクスはRPAに会社全体がなじんでいたこともあり、このような自動化やAI活用の流れには比較的敏感に反応したのではないかと思います。4月にはAI利用のガイドラインを発行し、積極的にAIを活用してよいが、やってはいけないことは何かということを明確にしました。
続いて5月にはAIコンテストの開催を発表し、AIを活用する技術を従業員全員が身に着け、企業全体で活用する文化を醸成しようと呼びかけました。私は会社として初めて開催するAIコンテストの事務局としてガイドを務めました。
そして7月に、AIコンテストの審査が行われました。エントリーは25件、エンジニアはもちろんのこと、普段プログラムを書くことがなかったWebディレクターや品質管理の担当者からもエントリーがありました。また社歴を見てみても10年以上ミツエーリンクスで仕事をしているベテランもいれば、2023年4月に入社した新卒のスタッフもいて、まさに多様性に富んだエントリーでした。
最終審査まで進んだのは9名で、彼らが作ったプロダクトを大別すると3種類に分けられました。1種類目はプロンプトエンジニアリングによって、目的のアウトプットを精度高く、短時間で出力できるようになるというタイプのプロダクトです。コンテンツ生成をしてくれるものや、教師・コーチ役になってくれるものなどがありました。2種類目は非エンジニアがAIの力を借りることでソフトウエアを開発し、自分がこれまで手作業で行っていた業務を自動化できたというもの。3種類目は、ブラウザーをインターフェースとして入力情報をAIが処理して出力結果をブラウザーに表示したり、結果をデータベース化するようなものでした。
最終的に、これらのプロダクトに順位をつけなくてはならないのがコンテストなのですが、AIの活用には評価する視点がたくさんあるが故、審査員たちは順位をつけるのに非常に苦労したと思います。たとえばどのプロダクトがサービスとして価値が高いかという視点で審査すると2種類目の非エンジニアが自分の業務を自動化したというプロダクトに受賞の芽はないのですが、そもそものコンテストの趣旨である「AIを活用する技術を従業員全員が身に着け、企業全体で活用する文化を醸成する」という視点では、2種類目のプロダクトこそ大きな価値があると言えるかもしれません。
あえてこのコラムでどのプロダクトが優勝したということについて触れることはしませんが、AIコンテストを終えて今思うことは、月並みではありますが「やって良かった」に尽きます。当初の目的である「AIを活用する技術を従業員全員が身に着け、企業全体で活用する文化を醸成する」ということに対して前進できた実感を得られたのが一つ、さらに最大の成果はこのコンテストが人材を発掘する良い機会になったことです。おそらくコンテスト参加者から会社の未来を牽引する人材が出てくると感じましたし、そう感じたのは私だけではありませんでした。コンテストには優秀な人材を早期に発掘できるという効果があることがわかった今、今後も定期的にこうしたイベントを開催していきたいと考えています。
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