生成系AIの隆盛で変わるWebとの接し方
エグゼクティブ・フェロー 木達 一仁この広大な宇宙において、地球が知的生命の存在する唯一の天体とは限らない、とは多くの専門家が共通して語ってきたことです。では今日に至るまで、私たちが一度として地球外に存在するはずの知的生命から信号を受け取ったことがないのは、なぜでしょう?
そこで語られる理由の1つが、「暗い森」理論です。暗い森で自ら居場所を明かそうものなら、途端により強力な捕食者に襲われてしまう。従い、宇宙が暗い森に例えられるなら、そこで生き延びるには誰しも息を潜めるしかなくなる……というような説です。
真偽はさておき、たいへん興味深い理論ですが、実は「暗い森」理論がWebにも当てはまる、というプレゼンテーションを最近になって拝見しました。Maggie Appleton氏による今年4月の講演、『The Expanding Dark Forest and Generative AI』がそれです。
Appleton氏のサイトでトランスクリプトが公開されていますが、内容を日本語で読みたいという方には、私がこの講演を知るきっかけとなった記事、ウェブをますます暗い森にし、人間の能力を増強する新しい仲間としての生成AI – WirelessWire Newsをご紹介しておきます。
オリジナルのアイデアは、2019年にYancey Strickler氏が著した『The Dark Forest Theory of the Internet』にさかのぼるようです。ともあれAppleton氏いわく、現在のWebは人間味の感じられない低品質なコンテンツにあふれ、また何かを発信するにはあまりに危険な(攻撃を受けやすい)場所になっている、と指摘します。
残念ながら、私の個人的な体験に照らしても、Webには「暗い森」に似た側面があることを認めざるを得ません。そしてその「暗い森」に該当する部分が、生成系AIの隆盛によって今後ますます拡大する可能性を、Appleton氏は論じています。
Webが「暗い森」としての性質を強め、最終的に人々がそこで一切のコミュニケーションを取りたがらない、ないし取れない場になってしまうとしたら?四半世紀以上にわたりWebのおかげで生計を立ててきた私の個人的な立場を抜きにしても、極めて残念と言わざるを得ません。
しかし、私はあくまで将来に対し楽観的です。楽観的でなければ、『脅威ではなく機会としての生成系AI』などというコラムを書けるはずがありません。確かに、生成系AIを使って生み出されるコンテンツは現実的な課題となりつつありますが(例:MIT Tech Review: 生成AIで広告収入目的のゴミサイトが急増、1日1200本更新も)、乗り越える術を必ず手にすることができると信じます。
Appleton氏は講演のなかで、フィルタリングされたWebがデフォルトになる未来を予測しています。もとよりWebは玉石混交であり、生成系AIが注目されるより前からデマや誤情報、フェイクニュースなどが問題視されてきました。好むと好まざるとにかかわらず、私たちは「素の」Webを使わなくなる方向へ、すなわちAppleton氏の予測する方向へと、すでに歩みを進めているように映ります。
どのレイヤーでどのようなフィルターを設けるか、そのデザインには言うまでもなく、細心の注意と可能な限りの慎重さが求められるでしょう。しかし、生成系AIの隆盛を誰も(おそらくは国家ですら)止めることができない以上、並行して私たちはWebとの接し方を進化させる必要があるでしょう。
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