ブラウザの進化で再発見するWebの魅力と可能性
エグゼクティブ・フェロー 木達 一仁皆様は、普段使いのWebブラウザ(本コラムではChromeやSafariなどの視覚系ブラウザを意図します)として、どのブラウザを、どのような理由で選んでいるでしょうか。そもそも選択肢が複数あることをご存知でなく、あらかじめOSにプリインストールされていたWebブラウザを使い続けている、という方も少なくないでしょう。
Webコンテンツを単純に表示させる目的に限っていえば、どのブラウザを使おうと、実は五十歩百歩。Web標準が普及していなかった昔と異なり、表示上・動作上の差異は小さい認識です。従い、数ある中から何を理由として普段使いのWebブラウザを選ぶべきかは、想像しにくいかもしれません。
私は、表示するコンテンツのカスタマイズしやすさが、普段使いのWebブラウザを選ぶ理由たり得る、と考えています。たとえば私は老眼で、文字サイズを標準より大きく変更することが少なくありませんが、ブラウザが私のWeb利用動向を学習し、はじめて訪れるサイトであってもあらかじめ見やすく表示してくれたら便利です。
言い換えるなら、レンダリングエンジンの寡占化が進んだ昨今、Webブラウザ間における差別化や競争上のポイントとして、どれだけユーザーの選好や身体的・心理的特性に寄り添い、Webコンテンツのカスタマイズなりパーソナライズを積極的に支援できるかが重要になるのではと予想しています。
そうした主張に聞き覚えがあるという方、ごもっともです。ちょうど1年ほど前、コラム「ユーザー視点で期待するWebブラウザの進化」のなかで、私は「(Webブラウザは)もっとユーザーがコンテンツをカスタマイズしやすい方向に進化すべき」との自説を共有させていただきました。
また、ブラウザベンダーであるVivaldi Technologies社のCEO、ヨン・フォン・テッツナー氏と今年5月に対談した際にも、まったく同様の趣旨の提言を行い、氏から一定の賛同をいただけたことが対談記事「AI時代のWebブラウザから考えるWebアクセシビリティの本質 ――Vivaldiのアプローチから」に記されています。
そんな私が最近注目しているのが、The Browser Companyの開発しているArcというWebブラウザに搭載された、Boostsという名の機能です。この機能については、上述の対談記事のほか、ミツエーテックラジオでさまざまなブラウザの特徴を取り上げた回「ブラウザ戦国時代はくるか」でも言及されています。
従来、WebコンテンツをカスタマイズするにはWeb技術、とりわけCSSやJavaScriptについての知識・理解が不可欠でした。しかしBoostsは、それらを必要とすることなく誰でも簡単にカスタマイズできるよう、GUIを提供しているのです。さらにはカスタマイズした設定を、別のユーザーと共有することも可能。これは元来Webが有するカスタマイズ性、パーソナライズ性を広く一般に開放する点で、画期的ではないでしょうか。
残念ながら、目下ArcブラウザはmacOS版しか提供されていません(今年後半のリリースに向けWindows版も開発中)。しかし、いよいよコンテンツのカスタマイズしやすさという領域における競争、ユーザー本位の(良い意味での)新たなブラウザ戦争が始まるかもしれないと思うと、ワクワクするのは私だけでしょうか。
誤解のなきよう書き添えておきますと、Webにおけるビジュアルデザインやインタラクションデザインの提供価値を矮小化、ないし軽視するような意図は決してありません。しかし、コンテンツをどう表示させるかの決定権がユーザーの側にあるのは間違いなくWebの魅力や可能性の一端であり、それこそはアナログな紙媒体とは一線を画す、Webならではの媒体特性です。
引き続きWebブラウザの進化、とりわけブラウザの提供するコンテンツのカスタマイズしやすさに、私は注目したいと思います。
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