EU圏で迎えたブラウザ競争の新たな局面
エグゼクティブ・フェロー 木達 一仁iPhoneが搭載するOS、iOS。その最新バージョンである17.4がつい先日、米国時間の3月5日にリリースされました。iOS 17.4では、さまざまな新機能や不具合の修正が加えられていますが、特筆すべきはEUのデジタル市場法(DMA:Digital Markets Act)への対応です。
この対応には、実に多種多様な変更が含まれており、その概要を今年1月25日付けのプレスリリース「Apple、EU域内でのiOS、Safari、App Storeに関する変更を発表」で読むことができます。なかでも本コラムで取り上げたいのが、 WebKit 以外のブラウザエンジンが利用可能となった点です。
これまでも、ChromeやFirefoxといった、Apple純正のSafariとは別のWebブラウザを、iPhoneにインストールして使うことはできました。しかしChromeとFirefoxに限らず、iOS上で動作するアプリはすべて、ブラウザエンジンとしてSafariと同じWebKitを利用しなければなりませんでした。
その制約が外れたことで、ChromeはBlink、FirefoxであればGeckoといった具合に、それぞれに固有のエンジンを利用可能になります。より本質的なレベルにおけるブラウザ間の競争、さらには(それに端を発して)Webの進化を期待しやすくなる点で、前向きな変化と私は捉えています。
Interop を筆頭に、相互運用性を向上させる取り組みが活発化した結果、昔と比べブラウザエンジン間の差異は縮小傾向にあります。それでも、プラットフォームをまたいで同じブラウザエンジンを利用できれば、ユーザーにとってもSafari以外のブラウザベンダーにとっても、一貫性の向上に伴うメリットを期待できるでしょう。
しかし、上記はあくまでEU圏に限った話です。そしてブラウザベンダーにとっては、EU圏向けとそれ以外向けという、従来であれば必要のなかった管理が求められることになり、決して手放しで喜べるものではありません( Mozilla says Apple’s new browser rules are ‘as painful as possible’ for Firefox - The Verge 参照)。
同種の悩みは、グローバルサイトの運営を担うWeb担当者の皆様にも、生じる可能性があります。たとえば、同じiOS上のChromeであっても、EU圏のユーザーが使うChromeとそれ以外の地域のユーザーが使うChromeとで中身がまるっきり異なるとなれば、表示や動作の検証を分けて行う必要性が高まるかもしれません。
もっともこのお話は今後、EU圏外に広がっていく可能性があります。iPhoneの人気、すなわちiOSのシェアが比較的高い日本でも、デジタル市場競争会議の発行した「 モバイル・エコシステムに関する競争評価の最終報告 」において、以下の指摘がなされているのです:
一定規模以上のOSを提供する事業者が、ブラウザを提供するサードパーティに対して、自らのブラウザ・エンジンの利用を義務付けることを禁止する規律を導入すべきである。
さて、Web担当者の皆様は、このブラウザ競争の新たな局面、どうお考えでしょうか?私自身は、コラム「進むレンダリングエンジンの寡占化に想う」を書かせていただいた5年ほど前と、思いは変わりません。ブラウザ(やそのエンジン部分)の多様性は大事にすべきと考えていますし、Webのさらなる発展を願う立場として、また長期的な視点から、この局面を歓迎したいと考えています。
Newsletter
メールニュースでは、本サイトの更新情報や業界動向などをお伝えしています。ぜひご購読ください。