Webアクセシビリティへの取り組みで問われるべきは「成熟度」
エグゼクティブ・フェロー 木達 一仁今年4月1日の改正障害者差別解消法の施行から、半年が経ちました。改正のポイントは、セミナー「改正障害者差別解消法とWebアクセシビリティ」で解説しましたように、障害者への合理的配慮の提供が事業者に対して義務化されたことです。
同セミナーについては録画を公開しておりますので、改正法とWebアクセシビリティの関係について詳しくない方は、ぜひその録画をご覧ください(質疑応答を除いた40分ほどの動画です)。
この半年のあいだ、Webサイトに関し障害者から合理的配慮(合理的調整)を求める声が事業者に寄せられた事例を、私は聞いたことがありません。
その正確な理由はわかりませんが、いまだ障害者のあいだで改正法の認知が進んでいない事実は、一因に挙げられるでしょう(改正障害者差別解消法の施行から半年!合理的配慮に関する実態調査のレポートを公開! | 株式会社ミライロのプレスリリース参照)。
また障害者のなかには、改正法を正しく認知していても、使えない・使いにくいWebサイトに対しわざわざ声を上げるようなことを好まず、黙って類似のサービスを提供する別のサイトに乗り換える方が多くいらっしゃるかもしれません。
いずれにせよ、Webアクセシビリティの向上は改正法の施行前から環境の整備として求められてきたわけです。いつ合理的調整を求められても適切に対応できるよう体制を整えつつ、日頃から継続的にWebアクセシビリティに取り組むことが不可欠です。
今やアクセシビリティは、セキュリティと同様に必須の非機能要件として、Webコンテンツを公開し続ける限り取り組む必要があります。その前提において、アクセシビリティ品質の高さより、取り組みがどれだけ成熟しているかが、今後問われるだろうと私は考えています。
より高いアクセシビリティを実現できたほうが望ましいのは、言うまでもありません。無論、WCAGないしJIS X 8341-3といったガイドライン/規格において、満たしている達成基準の数は、多いほうが良いでしょう。しかし、品質の良し悪しというのは、あくまでそれを計測した時点に限ったお話です。
WebアクセシビリティについてしっかりPDCAサイクルを回し続けることができているか、そのためのガバナンスが組織に根付いているかは、成熟度という指標で表現できます。実際、その目的において策定されているのがAccessibility Maturity Model、アクセシビリティ成熟度モデルです(現時点では草案である点に注意)。
このモデルでは、文化やコミュニケーションといった7つの切り口それぞれに対し、以下の4つの段階(Stage)を定義しています。
- 活動前(Inactive):必要性が認識されていない
- 活動開始(Launch):組織全体で必要性が認識され、計画が開始されたものの、活動は十分に組織化されていない
- 統合(Integrate):ロードマップや組織全体のアプローチが定義され、また整理されている
- 最適化(Optimize):組織全体に組み込まれ、一貫した評価がなされ、また評価結果に基づいた行動が取られている
以前、似たような内容のコラムを読んだことがあるという方、ごもっともです。実は昨年、デザインガイドライン / デザインシステムとCMMIというコラムを書きましたが、そのなかでご紹介したCapability Maturity Model Integration(CMMI)とアクセシビリティ成熟度モデルは、内容的に非常に近しい間柄にあります。
社会がWebアクセシビリティへの取り組みを企業に強く求めるよう変化してきたからこそ、企業のWeb担当者の皆さまには、都度のアクセシビリティ試験(監査)の結果はもとより、ぜひご自身の所属組織や取り組みの成熟度に目を向けていただけたらと思います。私どもとしましても、個々の成熟度に応じた適切なサービスをご提供できるよう、最善を尽くしていきたいと思います。
最後に、イベント登壇のお知らせです。来る11月19日、Web担当者Forum ミーティング2024 秋で、「施行から半年……正しく理解し、取り組めていますか? 改正障害者差別解消法とWebアクセシビリティ」と題した講演を行います。対面形式のイベントですので、当日ご来場の皆さまに直接ご挨拶させていただけることを、楽しみにしております。ぜひご参加ください。
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