UX Masterclass 2024 Dubai 参加報告
UXリサーチャー 隅田 穂乃花UX Masterclassは、世界32カ国のUXリサーチ・デザイン企業により構成されるUX allianceが毎年主催する国際カンファレンスです。当社は2007年にUX allianceに加盟し、各国と連携しながらグローバル調査案件の実施や定期的なミーティングを通して、国内外のナレッジ共有・収集を行っています。その活動の一環として、UX allianceの主催するこの国際カンファレンスにも毎年参加しています。
今年のUX masterclassはアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催され、開催国ホストとしてDigital of Things社の協力により実施されました。当社からは、去年に引き続き私隅田と、同じくUXリサーチャーの竹内が代表としてカンファレンスに参加しました。
このカンファレンスには毎年テーマが設定されており、今回のテーマは「Shaping Tomorrow's Experiences: UX in the Era of Evolving Customers」でした。技術の進化とともに、我々リサーチエージェンシーに調査を依頼するクライアントも、サービス・プロダクトを利用するユーザーが求めるものや考え方も日々進化する中で、UXの専門家として持つべき視点や有用な手法が、各国のパートナー企業の有志メンバーより発表されていました。
本記事では、その中からいくつかピックアップしてご紹介をします。
Decolonizing LLMs: An Ethnographic framework for AI Alignment
検索技術や翻訳などに広く使われる大規模言語モデル(LLM)を、各国の言語で適切にローカライズするための手法や注意点が、アメリカのパートナーと共同研究を行うGoogle社のメンバーによって発表されました。プロジェクトの中で現地の専門家と協力し、データの収集から分析に至るまでその国特有の文化に配慮するプロセスが紹介されていました。
この発表のテーマはLLMですが、LLMに限らず、同じことがグローバル調査にも言えると感じます。複数カ国にまたがる調査を行うとき、ある程度質問項目を共通化する必要がありますが、欧米の人々にとって答えやすい質問であっても、日本人のコミュニケーション特性にそぐわないことが多々あります(例えば「あなた自身のアイデンティティを簡潔に言語化してください」など)。この発表で紹介されたような視点は、今後こういった課題に直面した際のヒントになると感じました。
The Rise of the Ethical Consumer: UX for Values-Driven Customers
近年注目が集まっている「エシカル消費(雇用などの社会問題や、環境的配慮などが成された製品を消費すること)」をテーマとした、サウジアラビアのAlraedah社のプレゼンテーションです。ユーザーがエシカル消費を望んでいることを前提に、企業・デザイナーが一体となってそのニーズを理解し、サービスやプロダクトのデザインを行うべきだという内容が語られました。
他国と比較すればまだ浸透していないとはいえ、日本でも年々エシカル消費を重要視する動きがユーザーの中で見られます。そのため、企業全体の取り組みとしてこれを意識しデザインを検討する新たな視点が、今後ユーザー中心の要件の一つとして求められていくであろうことを再確認できるプレゼンテーションでした。
Expectations Evolve: Humans Don’t Balancing Customer Needs with Human Capabilities
アメリカのBold Insight社による発表です。技術進化に伴いユーザーのニーズは多様化していますが、必ずしもそのニーズを適切に言語化できるわけではない中で、専門家がユーザーのフィードバックを解釈し、分析し、デザインに反映していくことが重要であるという内容でした。
調査でユーザーから「こういった機能が欲しい」「こういうデザインにしたほうが良い」などの意見を聞くと、その意見をそのまま取り入れようとする顧客も多く存在します。しかし重要なのはユーザーの言葉そのものではなく「なぜその意見が出てきたのか」という本質的な理由を探ることです。これまで当社も、セミナーやクライアント様向けの講習会などでこの点を強調してきましたが、「昨今、技術が目覚ましく進歩する一方で、人間の認知や身体能力は変わらないままだ」という主張を受け、さらにこの点を意識する必要があると実感しました。
以上、カンファレンスの発表に関するレポートでした。
ドバイはIT技術が浸透・発展した都市のため、名だたるIT企業が拠点を構えており、街並みもアジアやヨーロッパなどの国にない独特の雰囲気がありました。また、タクシーの領収書受領システムも、メールアドレスを専用のタブレットに入力すればデジタル送付されるなど整備されている点が印象的でした。UAEは各国パートナーのメンバーも馴染みがないかたが多く、各国リサーチャーのそれぞれが発見した興味深い点を共有し合う場が、非常に実りある時間になりました。
引き続き、各国のUX活動の理解やリサーチャー同士の意見交換を通して私たちの知見を高めていきたいと思っています。最後までお読みいただきありがとうございました。
- ※ UX allianceは、2005年にフランス、ドイツ、スペイン、イギリス、アメリカの先進的UX企業で設立され、2024年11月現在32ケ国が加盟しています。その活動は、今回のようなUX masterclass Conference開催の他、毎月の情報共有会、各国がグローバルUX調査の連携をとりやすいような施策の実施、調査の質を担保するための活動を通して、協力体制を構築しております。
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