PDFをアクセシブルにする必要性
アクセシビリティ・エンジニア 中村 精親本日、株式会社ミツエーリンクスでは、「アクセシブルPDF作成サービス」をリリースいたしました。そこで、本稿では2つの観点から本サービスが必要とされる背景をご紹介したいと思います。
本稿をお読みになっている方であれば、おそらく利用したことがないという方はいない、といえるくらい広く利用されているフォーマットであるPDF(Portable Document Format)。開発元であるアドビシステムズ社によると、誕生してから15年あまりで既に10億以上のファイルが存在するとされているそうです。
また、そのページにも言及されていますが、実際にGoogleでPDFファイルを検索してみますと、Web上に掲載されているPDF文書だけでも2億5千万以上あることがわかります。
さらに、2008年にはISO 32000-1として国際標準の仕様となっており、今後ますます利用される場面が増えていくことでしょう。
正しい情報や文書構造を内包したPDFの必要性
前述の通り、非常に広く普及しているPDFですが、そのアクセシビリティについては仕様としてサポートされているにもかかわらず、あまり意識されてこなかった、というのが現状ではないでしょうか。そのため、世の中にあるPDF文書の多くは、(特に印刷した際の)見た目だけが重視され、文書自体が本来持っている情報や構造などが明確になっておらず、電子文書としてのメリットがあまり活かされておりません。
しかしながら、PDF形式で発信される情報には、プレスリリースやIR情報、商品説明書など、さまざまなユーザーにとって重要となる情報も多く、そうした情報を入手できない可能性があるユーザーがいる、ということはユーザーにとってはもちろん、情報発信側である企業や団体などにとっても大きな問題であると考えられます。
そうした問題に対して、どのような解決策がとられているかといいますと、PDF形式で発信している情報については、例えばHTML形式でも同様の内容を発信する、電話でのお問い合わせを可能にしておくなど、他の手段を別途用意する、というサイトを見かけることがあります。ですが、この方法ではコストが倍増してしまう恐れがあります。そこで考えられる解決策が、PDFそのものをより多くのユーザーが利用できるように、正しい情報や文書構造を持ったものにすることなのです。
WCAG 2.0とJIS X 8341-3:2009
一方、既に過去のコラムやアクセシビリティBlogでお伝えしてまいりましたが、Webアクセシビリティ分野では2008年から主要なガイドライン、指針の改定が続いており、こうした流れがアクセシブルなPDFが必要となってくるもうひとつの背景です。(ガイドラインの改定については、WCAG 2.0勧告がもたらすWebアクセシビリティの新しい時代もご参照ください。)
一連の改定の中でキーワードのひとつとなる「技術非依存」という部分がすなわち、PDF形式であってもガイドラインや指針に適合するためにはアクセシブルである必要がある、ということを意味しています。当社では2008年に「アクセシブルFlash作成サービス」を既にリリースしておりますが、FlashコンテンツやPDF文書などかつては「アクセシビリティの敵」と呼ばれるくらいアクセシビリティとは縁遠かったもので、今もそうした誤った認識を持たれている、もしくはHTMLではきちんと意識しているのに、FlashやPDFなどの場合はアクセシビリティを気にしない、という方はかなり多いのではないでしょうか。
しかし、仕様がアクセシビリティを考慮したものになり、ガイドラインがそれを前提としたものへとそれぞれ進化することで、今後はアクセシブルなFlash、PDFというものが徐々に増えていくのではないかと思います。
冒頭に述べましたとおり、PDF文書は広く世の中に普及しています。それにはもちろんさまざまなメリットがあるからなのですが、そのメリットをさらに大きくしていくためにも、アクセシブルなPDFとしていくことは非常に価値があることだと考えています。
その昔、HTMLをアクセシブルにするのではなく、別途テキスト版を用意することで解決する、という時代がありましたが、今はHTMLが最低限アクセシブルであることが当たり前の時代となりました。PDF文書やFlashコンテンツも、これからは代替コンテンツを用意するのではなく、そのものがアクセシブルであるべき、という時代がやってくると思います。そうした時代に向けて、一歩リードすることを考えてみる、というのはいかがでしょうか?
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