数学的トピックスからみた今のAIができないこと、そしてその未来
取締役社長(Co-CEO) 藤田 拓昨年の年末からこの6月まで、AIに関する話題は枚挙にいとまがない中、小林のコラムにもあるようにミツエーリンクスではAI推進部を立ち上げました。
AI元年ともいえる2023年、様々な企業がAIに取り組まれている中、ミツエーリンクスも積極的にAIを活用し、お客様に価値あるWebをご提供できればと考えています。
さて、インターネットやスマートフォンの登場と同様な盛り上がりを見せるAIですが、「AIにできないこと」についてもよく言及されます。人と人とのふれあいやいたわりのコミュニケーションが挙げられることもありますが、もしかするとそれはAIの問題というよりは、デバイスや見た目の問題でもあり、今進化を見せている人型ロボットやVirtual Realityが不気味の壁を乗り越えてしまうとAIで対応可能になる可能性もあります。
またAIは数学が得意なのではないか?と思われることもあるでしょう。無機質に見える数学はAIにとって無双の場にも思えます。しかし、過去の数学の業績に照らし合わせると、今のAIでは到底解くことができない部分が見えてきます。
たとえば最近YouTubeコンテンツでもたまに取り上げられる、数学界における「インドの魔術師」ことシュリニヴァーサ・ラマヌジャンが見つけた円周率π関連の公式を今のAIが導き出すことは困難なのではないでしょうか。
πを求める無限級数としては下記のマーダヴァ-ライプニッツ級数が有名です。そのわかりやすさ、美しさは数学の王道を感じます。
上記Σを使って表現すると下記となります。
しかしこの式ではπの10桁までを計算するには100億項程度が必要となり、計算効率がよいとはいえません。
それに対して下記に示すラマヌジャンのπの公式は見た目が複雑でそれぞれの数字にどういった意味があるのかわからないものです。
公式の数学的美しさ、という点においてはマーダヴァ-ライプニッツ級数に敵わないでしょう。しかし、このラマヌジャンの式を使うと1項目で7桁、2項目において16桁を正しく計算でき、圧倒的に効率がよいのです。
また、なにより、マーダヴァ-ライプニッツ級数と大きく違うところは、ラマヌジャンの公式が生まれる歴史的必然性が見当たらないということでしょう。
実はマーダヴァ-ライプニッツ級数の名前からも分かる通り、この公式はマーダヴァ、ライプニッツ、グレゴリーの3名が別時期に発見しています。科学的発見というのは歴史的な流れで生まれるものが多く、たとえば、相対性理論についてもアインシュタインがこの世にいなかったとしても他の誰かが見つけていた可能性が高いです。しかし、ラマヌジャンの見つけた定理・公式はそれまでの数学における知的蓄積から大きく逸脱しており、ラマヌジャンが生まれなければこれらの公式は得ることはできなかったであろう、と言われています。
まさしく「閃き」としかいいようがないラマヌジャンの公式について(恐ろしいことにラマヌジャンはこういった公式・定理を毎日朝になるといくつか思いついたそうです)、それまでのデータや与えられた条件から推論していくAIが生み出すことは難しいといえるのでないでしょうか?
また、現代数学の父といわれるダフィット・ヒルベルトがまとめたヒルベルト問題。もしAIがこれらの問題に答えてくれればありがたいのですが、未だに解けた!という報告はありません。つまり高度に数学的未解決問題への手段としてAIは力不足であるといわざるをえません。また、これらの問題を考えつくことも現代のAIにとって困難であるといえるのではないでしょうか?
以上のことは、クルト・ゲーデルの不完全性定理における第二不完全性定理から考えると当然なのかもしれません。角谷良彦氏の説明によると、
第二不完全性定理は,「どのような形式的体系も,その体系自身が矛盾していないことを証明できない」というものである。こちらは,ある形式的体系が矛盾していないことを示すには,メタ論理として,その体系よりも強力な体系が必要であるということを意味している。
とあります。AIは系、つまりシステムです。このシステムが人のシステムに依存している限り、より高度な考察は生まれないのかもしれません。
それと対照的な事例として特化型AIでもある将棋のAIがあります。将棋のルールと目的を与えたAIにひたすら自身による対局を試行させれば、その速度、回数はとてつもなく、今までの人による対局パターンデータの数を遥かに超えるため、新たな手を生み出すのは自明でもあります。今後も特化型AIは特定の分野において人間を凌駕していくでしょう。
逆にいえば、汎用型 / Generative型についても彼らの人システムへの依存部分を減らせば、より効率のよい、柔軟な試行が可能な独自の言葉を生み出し、人システムでは想像もつかないような新たな知的生物のシステムとして存在するようになるのかもしれません。そして、いずれAIなりの「閃き」も生み出せるようになるのではないかと思います。ただ、この点は人への害ということも踏まえて慎重に考える必要があり、今後は倫理 / 社会の考え方への影響も大きいでしょう。
AIの未来は様々な可能性を感じさせてくれます。少なくともAIの影響は今より小さくなることはないでしょう。私達ミツエーリンクスは木達のコラム「脅威ではなく機会としての生成系AI」にもあるように、これらの変化をチャンスと捉え、進んでいきたいと思います。
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