戦略実行を可能にするWeb版バランススコアカードという考え方
プランニング&ディレクショングループ プランナー 棚橋 弘季企業サイトの活用に明確な成果が問われる時代になりました。Webマーケティングの成果としての問い合わせや資料請求による見込み客の獲得数、顧客関係性の構築、維持および顧客生涯価値の向上を目指しての新規およびリピートユーザーの訪問数など、Webサイトによる成果として目標となる数値は、企業ごとに具体的に設定されているのではないでしょうか。
しかし、そういう時代になったからこそ、「数値目標達成のための施策が具体的にわからない」、「戦略は立てたものの実行がままならない」、そんな悩みを抱えている企業Web担当者の方も多いのではないかと思います。今回は、目標達成のための戦略を、具体的なアクションプランに分解し、かつ、最終目標達成のための事前指標となるパフォーマンス・ドライバーを各アクション・プランに対して設定・管理するための、弊社独自のフレームワークとして、Web版バランススコアカードの考え方をご紹介したいと思います。
バランススコアカードの活用のメリット
私たちがWeb版バランスコアカードというフレームワークを開発した背景には、当然、バランススコアカードの考え方が戦略実行のフレームワークとして優れたものであるという認識があります。バランススコアカードに関しては、過去に何度か別のコラムでも取り上げていますので、ここでは説明を割愛させていただきますが、その最も優れた点は、戦略を具体的なアクションプランに分割し、かつ、それぞれのアクションプランの関連性を明確に説明できるよう定義づけることが容易な点、また、そのことにより最終的な成果目標達成のための事前指標(=パフォーマンス・ドライバー)を各アクション・プランに対して設定することで、達成率などを測定(=可視化)できるようになり、戦略実行のコントロールを可能にしてくれる点です。
Web版バランススコアカードとは
もちろん、Web版バランススコアカードも、そうした利点を引き継いでいます。Web版バランススコアカードは、下図のように「効果の視点」「クリエイティブの視点」「情報設計の視点」「情報・機能の視点」の4つの視点をもちの、それぞれバランススコアカードの4つの視点と対応した形で設計されています。
最終的な効果として必要とされる、見込み客獲得数(問い合わせ件数、資料請求数など)やその前提となるアクセス数の向上のためには、ターゲットユーザーが欲している情報、機能があるか/ないかといった「情報・機能の視点」、集客のためのSEO対策やユーザーがストレスなくサイトを利用できるかどうかのユーザビリティ設計を含む「情報設計の視点」、さらには掲載された情報、あるいは企業そのものをいかに魅力的で価値あるものとして表現するかという「クリエイティブの視点」の3つの視点を踏まえたアクション・プランが必要となります。これをバランスよく実行できてはじめて「効果の視点」における目標が達成されると、私たちは考えています。
バランススコアカード | Web版バランススコアカード | 各視点のポイント |
---|---|---|
財務の視点 | 効果の視点 | 成果・効果 |
顧客の視点 | クリエイティブの視点 | 満足度 |
社内プロセスの視点 | 情報設計の視点 | 効率 |
学習・成長の視点 | 情報・機能の視点 | 効果 |
また、中心となるWebサイトの目的、Web戦略は、当然、企業戦略やマーケティング戦略の下に位置して、ビジネス的効果、マーケティング効果を達成するためのものとして設定されます。こちらに関しては、企業のコアとなる考え方を最上流に据えた台形ピラミッドのモデルが参考になるでしょう。
Web版バランススコアカードの活用方法
では、具体的なWeb版バランススコアカードの活用の方法を、下記の2つの例で考えてみましょう。
例1 | 例2 | |
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目的Web戦略 |
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効果の視点 |
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クリエイティブの視点 |
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情報設計の視点 |
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情報、機能の視点 |
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上記の2つの例のように、Web版バランススコアカードを用いると、目標達成のための施策を整理して考えることが可能になりますので、戦略に見合わない施策を不必要な労力をかけて実行してしまうような無駄がなくなります。また、それぞれの施策に対して事前指標としての目標値を設定することにより、それぞれの施策の達成率を測ることも可能になり、戦略実行のコントロールが容易になるという利点もあります。上記の例では、目的を「見込み客獲得数の向上」「企業ブランドイメージの向上」の2例で説明しましたが、他の目的(例えば、「既存顧客の活性化」や「CSR活動の向上」など)であっても、それに応じた戦略を立て、Web版バランススコアカードを用いて具体的なアクションプランとその実行のためのコントロールが可能となります。
サイトリニューアルが必ずしも有効な施策ではない
Web版バランススコアカードは、Web戦略を具体的なアクションプランに落とし込むことを可能にし、同時にその実行のコントロールが可能な測定指標を与えてくれます。
さらに、Webバランススコアカードは私たちに重要なパースペクティブの変更をうながします。それは、これまでWebサイトの改善の常套手段であったWebサイトの全面リニューアル(スクラッチ&ビルド)は、企業の課題解決においては必ずしも有効な施策ではないということです。
Web版バランススコアカードは、企業の外にあるユーザー視点を盛り込んだ企業戦略やマーケティング戦略を前提としています。実行する側にとっては数ヶ月(あるいは1年くらい)かけて行うWebサイトのリニューアルも、ユーザーにとっては、すこし大掛かりな更新というくらいかもしれません。むしろ、ユーザーが求めるのは、自分に役立つ情報、価値ある情報がどれだけ頻繁に提供されるのかということのほうが重要かもしれません。企業活動は、そもそもにおいて顧客(およびその他のステークホルダー)とのコミュニケーション活動です。Web版バランススコアカードはこうしたユーザー視点を導入することで、Webサイトに本当に効果をもたらすにはどうすればいいかという視点で、Web戦略の立案を可能にし、その実行を容易にしてくれるツールです。これまでの(再)構築/運用といった2元論を超えて、Web戦略の効果的な実行を可能にしてくれるのが、Web版バランススコアカードです。
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