「モバイルファースト」終わりの始まり
取締役 木達 一仁Luke Wroblewski 氏が、自身のサイトで「 Mobile First 」というタイトルの記事を公開したのは、2009年11月のこと。その2年後には書籍『 Mobile First 』が A Book Apart より出版され(著者は同じくWroblewski氏)、モバイルファーストは広く知られるところとなりました。当社でも2012年に「モバイルファースト」解説セミナーを2度にわたり開催した経緯があります。それがどのような考え方かは、過去に矢倉の書いたコラム「モバイルファーストとWebサイトのコンテキスト」をお読みいただければと思います。
さて、誕生から既に3年半ほどの月日が経過したわけですが、果たしてモバイルファーストは今日においても有効なアプローチなのでしょうか。
まず、この言葉に含まれている「モバイル」とは何か、を確認する必要があるでしょう。モバイルファーストが語られるとき、それはモバイルデバイスまたはそのユーザーを指すことが多いと思います。では、モバイルデバイスには具体的に何が含まれるでしょうか。容易に思いつくものとしては携帯電話(フィーチャーフォン)やスマートフォン、タブレット型デバイスがあります。
それらのデバイスの共通点、言わばモバイルデバイスと呼ぶに相応しい特性として、持ち運びができる程度に小型・軽量であること(従いスクリーンは比較的小さい)、また通信機能を有することが挙げられます。しかし昨今のスマートフォンの大画面化・高解像度化は著しく、通信速度についてもLTEが普及し始めるなど、一層の高速化を果たしつつあります。加えて、貧弱だったCPUやメモリといった部分の性能も、着実に向上し続けています。
ことタブレット型デバイスにおいては、それを持ち運びながら移動中に使うより、自宅等で使う人のほうが多いとの調査結果があります(スマートフォン・タブレット・パソコン、利用シーンに違いあり! | Yahoo!プロモーション広告 公式 ラーニングポータル参照)。またそのスクリーンサイズについては、7〜10インチのものが普及していますが、20インチ以上のスクリーンを有し、もはや従来のデスクトップPCとサイズ的にも性能的にも遜色ない、あまり持ち運ぶことを想定していない製品が登場し始めています。つまり、
- モバイルデバイスの特性が多様化している
(モバイルデバイスが必ずしもスクリーンが小さく通信速度が遅いとは限らない) - モバイルデバイスを使う際のコンテキストが多様化している
(必ずしも移動中やすきま時間ばかりにモバイルデバイスを使うとは限らない)
ということです。「モバイルファースト」という言葉が生まれた当時、既にそういう傾向は認められていたにせよ、「モバイル」または「モバイルデバイス」の意味するところは大きく変化してきたように思います。そもそも「モバイル」か否かを区別すること自体が困難で、かつその区別が有意でなくなってきているのではないでしょうか。結局のところ進行しているのは、Webにアクセス可能なデバイスの多様化であり、それを利用するコンテキストの多様化でしかない、と思います。
そうした変化を踏まえてなお、モバイルファーストというアプローチは有効であると自分は考えます。レスポンシブWebデザインを採用するような、ワンソース(同一コードベース)でマルチデバイスに対応するときは特に、そのアプローチが重要となります。あらゆるデバイス、あらゆるスクリーンサイズを想定したコンテンツ設計が求められるとはいえ、表示上の制約の最も厳しいデバイス/スクリーンを念頭に置く必要があるからです。
しかし「モバイルファースト」という言葉そのものは、やや陳腐に感じられるところがあります。今日あるまでに多様化するより前のモバイルデバイスなりモバイルコンテキストに偏ったイメージが付いてしまっているからだと思います。モバイルの重要性への気づきを与える、という意味で果たした役割は大きかったと思いますが、そろそろ私たちは「モバイルファースト」という言葉を使うことから卒業すべきではないでしょうか。
「モバイルファースト」解説セミナーでも触れましたが、このアプローチの真意はモバイル云々よりむしろユーザーファーストであり、コンテキストファーストであり、コンテンツファーストでもあります。誰に対して何をどう伝えるのか、どのようなコミュニケーションを実現したいのか、という部分こそ重視すべきです。真意は汲みつつも、言葉としての「モバイルファースト」は消費して、さらにWebデザインを進化させる必要があります。やや扇動的に聞こえるかもしれませんが、本コラムのタイトルに「『モバイルファースト』終わりの始まり」と付けたのは、そのような想いからです。
なお現在、昨年実施したレスポンシブWebデザイン入門セミナーの続編となるセミナーを企画中です。マルチデバイス対応として現在ある考え方や手法を整理し直し、皆様にわかりやすくお伝えしたいと考えています。告知まで、今しばらくお待ちください。
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