TPAC 2015参加報告
第二本部(第一部) アクセシビリティエンジニア 黒澤 剛志2015年10月26日から30日にかけて札幌で開催された、World Wide Web Consortium(W3C)の Technical Plenary / Advisory Committee Meetings Week(TPAC 2015) に参加してきました。W3CはHTMLやCSSなどのWeb技術の標準化を行う団体で、TPACはW3Cの年次総会にあたるイベントです。W3Cにおける標準化はWorking Group(作業部会)を中心に標準化が進められていますが、TPACでは様々なWorking Groupが集まってミーティングを行います。W3CによるとTPAC 2015は TPAC史上最多の参加登録者を記録した とのことです。
さて、このコラムでは、今年のTPACに参加して私が感じたことを2つ紹介したいと思います。
また、アクセシビリティBlogで現地レポート(現地レポート1、現地レポート2、現地レポート3、現地レポート4)を公開していますので、合わせてご覧ください。
Working Groupの再編
私がTPACで感じたことの1つ目はWorking Groupの再編です。
W3CではWorking Group(作業部会)を中心に標準化が進められていますが、TPAC 2015の直前にはアクセシビリティ、HTML、DOM APIなどを含むWorking Groupの再編が行われました。
アクセシビリティ関連では、例えば、 Protocols and Formats Working Group(PF WG) は、Accessible Rich Internet Applications(ARIA)仕様群の標準化を行う Accessible Rich Internet Applications Working Group(ARIA WG) と、他のWorking Groupが標準化している仕様をアクセシビリティの面からレビューする Accessible Platform Architectures Working Group(APA WG) に分割されました。
また、これまでHTML仕様の策定を行ってきた HTML Working Group と、各種APIなどの策定を行ってきた Web Applications Working Group が統合され、Web Platform Working Groupという巨大なWorking Groupが誕生しました。
これらのWorking Groupの再編は標準化に関わっている組織や人が大きく入れ替わったというのではなく、それらの組織や人がよりよい形で活動するための変更だと認識しています。再編によってできたWorking Groupには、今年のTPACが最初のface to faceミーティングであるところも少なくありませんでしたが、ミーティングの参加者は去年のTPACから大きくは変わらないという印象を受けました。
Working Groupによってはミーティングで今後の標準化の進め方について議論されたところもありますが、TPACで結論が出るというよりは、今後の議論のもとになる意見が出たと印象を受けました。また、現在のWeb技術は必ずしもW3Cだけで標準化できるというものではなく、Web Hypertext Application Technology Working Group(WHATWG)やEcma International、Internet Engineering Task Force(IETF)などとの協調も必要です。外部の組織との協調も含めた、今後の動向に注視する必要があると感じました(例えば、HTMLの標準化をW3CのWeb Platform Working GroupとWHATWGでどのように進めていくのか、など)。
なお、W3CにおけるWorking Group再編には現在進行しているものもあり、今後もWorking Groupの整理・統合が発表されるものと思われます。
仕様同士の相互関係
TPACに参加して感じたことの2つ目は、仕様同士の相互関係がますます高まっている、ということです。
ARIA WGのミーティングでは、Web Platform Working Groupで標準化されているWeb Componentsのアクセシビリティに関した議論も行われました。その中ではCSS Working Groupが標準化している CSS Scoping Module に含まれる機能に関する話もありました。Web Componentsの標準化ではTPAC 2015でもWeb Platform Working GroupとCSS Working Groupの合同ミーティングが開かれているなど、複数のWorking Groupが関わっています。
また、Web Driver仕様の標準化を行っている Browser Testing & Tools Working Group(BTT WG) のミーティングでは画面に表示されている文字列を画面に表示されているまま取得したい、と言う議論がありました。CSSによる空白文字や文字種(大文字・小文字や全角半角)の調整を含めると、HTMLソースやDOMから画面に表示されている文字列を計算することは複雑( CSS Text Module Level 3のAppendix A を参照)です。そこで、その複雑な処理をWeb Driver仕様そのものに取り込むのではなく、DOMのinnerTextを使ってはどうかという話がありました。innerTextはいくつかのブラウザーで実装されているものの、これまで標準化されてこなかったDOM APIですが、最近になって仕様を明文化しようという動きがあります。Mozillaの Robert O'Callahan氏によるinnerText仕様 では空白文字や文字種(大文字・小文字や全角半角)の調整処理はCSSの仕様を参照しています。
このように1つのWorking Groupだけで標準化が完結しない仕様や、必要とされている機能が別の仕様で定義されている場合など、仕様同士の相互関係が増しているように感じます。TPACではWorking Groupをまたがった気付きや提案がミーティングに出てくることもあります。また、ミーティングとミーティングの間の時間にも参加者が個別に互いに相談しあっている姿を多く見受けましたし、実際、私も何人かの方と相談しました。多くのWorking Groupのメンバーが1つの場所に集まるTPACの意義の1つは、このWorking Groupをまたがった気付きや提案だと考えています。
また、アクセシブルなコンテンツを提供するにはコンテンツを仕様に沿って制作していくことが重要ですので、今後ますます相互関係が増していく様々な仕様に対して深い理解が求められると考えています。
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