サステナブルWebデザインを実践するためのガイドラインが登場
エグゼクティブ・フェロー 木達 一仁サステナブルWebデザイン ソリューションをご提供する立場として、これまで複数回にわたり、コラムでサステナブルWebデザインを取り上げてきました。
最後に取り上げたのは、昨年10月の「サステナブルWebデザイン最新動向」です。当時、W3CのSustainable Web Design Community Groupの活動が活発化していることをご紹介しましたが、今年8月に同Community GroupはWeb Sustainability Guidelines(WSG)1.0を公開しました。
先行してフロントエンドBlogの記事「Web Sustainability Guidelines(WSG)1.0が公開」で言及済みの話題であり、また内容的に重複もしますが、今回は改めてこのWSGの略称で呼ばれるガイドラインをご紹介したいと思います。
なお、本稿はあくまで草案という位置付けのバージョン1.0に基づくものであり、今後のWSGの更新に伴い内容に齟齬が生じる可能性のありますこと、あらかじめご承知おきください。
WSGの概要
社会や環境の持続可能性、サステナビリティが懸念される昨今、膨大な電力消費を背景として成り立っているWebについても、例外ではありません。いかにして持続可能なWebを実現するか、そのための推奨事項を一元的に取りまとめたガイドラインが、WSGです。
WSGは、Webコンテンツについてのアクセシビリティガイドラインである、Web Content Accessibility Guidelines(WCAG)をモデルとして作られました。しかし、発行元はWorking GroupではなくCommunity Groupであって、つまりW3Cの標準化プロセスに則ったものではなく、WSGがW3C標準ではない点には注意が必要です。
WSGに対して、どなたでもフィードバックを送り、その改善に参加できます。GitHub経由か、あるいはオープンな議論の場であるpublic-sustyweb@w3.org宛のメールで、問題点を報告・共有する、2つの方法があります。期限は定められていません。
WSGの構成
WSGにはWCAGに似て階層構造、具体的には原則、ガイドライン、達成基準という3つの層を内包しています。
最上位に位置付けられるのが原則であり、全部で6つあります。いずれも、Sustainable Web Manifestoとして定義されていたものです:
- クリーン(Clean)
- 効率的(Efficient)
- オープン(Open)
- 公正(Honest)
- 再生力がある(Regenerative)
- 回復力がある(Resilient)
これらの原則の下に、コンテンツをより持続可能なものとするために取り組むべき基本的な目標として、ガイドラインが定義されています。ガイドラインは全部で93あり、それらは以下の4つのグループに分類されています:
- ユーザーエクスペリエンスデザイン(User-Experience Design)
- Web開発(Web Development)
- ホスティング、インフラストラクチャ、システム(Hosting, Infrastructure And Systems)
- 事業戦略と製品管理(Business Strategy And Product Management)
各ガイドラインには、その影響度とコストが3段階(低/中/高)で記されています。さらに、各ガイドラインの下に、テスト可能な達成基準が定義されています。達成基準は目下、全部で232あります。
具体例を紹介しますと、Web開発カテゴリにおいて、「正しくHTML要素を使う(Use HTML Elements Correctly)」というガイドラインが存在します。同ガイドラインの影響度は中、コストも中で、達成基準としては以下の3つが定義されているといった具合です。
- セマンティックなコード
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コンテンツが、適切なHTML要素を使用し、意味的にマークアップされていることを確かめてください。
- 非標準のコードは避ける
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非標準の要素や属性を使用することは避けてください。
- カスタムなコード
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ネイティブのHTML要素を使用できない場合や、デザインシステムに定義されたコンポーネントの使用が厳格に求められる場合にのみ、カスタム要素またはWebコンポーネントを使用してください。
WSGの今後と当社の取り組み
繰り返しになりますが、WSGは現時点ではW3Cの発行する公式なガイドラインではなく、またその内容は今後変更される可能性の高いものです。そのいっぽうで、Webの持続可能性に関するベストプラクティスをこれほど集約・体系化した成果物は他に類を見ず、注目に値するものと私は捉えています。
今後の展開次第では、策定の場をCommunity GroupからWorking Groupに移し、標準化プロセスに則ったうえW3Cの公式なガイドラインとして勧告される可能性もあります。そうなれば、社会課題解決への機運の一層の高まりと相まって、サステナブルWebデザインを実践するためのガイドラインとして、WSGは業界に広く根付くかもしれません。
当社的には、サステナブルWebデザイン ソリューションにおいて納品物が満たすべき品質基準にWSGを採用することを検討したいと思いますし、それより前に当社制作物における「当たり前品質」向上の一環として、WSGにある達成基準を段階的に可能なものから検品プロセスに組み込むことも検討できればと思います。
なにぶん量が多いので、すべてのガイドラインや達成基準を解説するのは難しいかもしれませんが……まずはサステナビリティ経営時代のWeb品質 解説セミナーの後継に相当する企画として、WSGを詳細にご紹介するセミナーの開催を、検討したいと思います。
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