検品におけるブラウザチェックの再考
エグゼクティブ・フェロー 木達 一仁2年前に遡りますが、2022年10月公開のコラム「サステナブルWebデザイン最新動向」のなかで、私は次のように記しました。
2023年以降においては、従来の取り組みを引き継ぎつつ、経済・社会・環境のいずれに対してもサステナビリティの観点からより高いレベルで貢献できるよう、品質向上の取り組みを強化したいと考えています。言わば、サステナブルWebデザインの社内標準化であり、当然それは当社にとってSDGsへの取り組みの重要な一角を成すことでしょう。
そして昨年、Web Sustainability Guidelines(WSG)1.0が公開されたことで、いよいよ当社制作物の品質基準にサステナブルWebデザインの考え方を取り込む検討を、本格化させました(コラム「サステナブルWebデザインを実践するためのガイドラインが登場」参照)。
未成熟なガイドラインではありますが、WSG 1.0には膨大な数の達成基準(Success Criterion)が定義されています。なかにはホスティング環境やビジネス戦略に関するものもあり、WSG 1.0の達成基準すべてを当社制作物に当てはめようとは考えていません。
しかし、従来は実施してこなかった検品に着手する必要は少なからずあり、目下その点を慎重に検討しています。新たに始める検品に伴い生じ得るコストをいかに抑えるか、が課題です。言わずもがな、アクセシビリティ標準対応を始めたときと同様、お客様に対価を求めることなく実現できれば理想的です。
従い、上記の検討においては既存の検品項目の見直しであったり、検品のさらなる効率化(AI技術の活用など)が避けられません。その流れで今、私が考えているのが検品におけるブラウザチェック、Webページをブラウザ上で目視確認することの簡略化です。
いわゆる「Web標準」が業界の常識ではなかった頃、Webブラウザのエンジンは今より数多く存在し、更新頻度はまちまちで、更新するか否かはユーザーに委ねられていました。自ずと巷で使われているブラウザ間の相互運用性は低く、制作したWebページをより多くのブラウザで目視確認することは、不可欠でした。
Webページの表示や動作に関しクレームが生じるのを未然に防ぐ目的から、Webサイトにおいてどの種類・どのバージョンのブラウザをサポートしているか、サイト運営側で表示/動作を確認しているかを明記することも、当時は業界の常識だったように思います(そうした記述は昨今でも割と目にします)。
しかし今や、Webブラウザのエンジンは減り、その更新頻度は以前と比べ遥かに高く(Web品質BlogにありますようにGoogle ChromeやMozilla Firefoxは毎月更新されています)、また更新は基本的に自動で行われます(「エバーグリーンブラウザ」などと呼ばれる所以です)。加えてブラウザベンダーは、Interop 2024のような取り組みを通じ、積極的に相互運用性を高めています。
一連の変化を踏まえるなら、ブラウザチェックの必要性・重要性は相対的に低くなったと考えることができます。少し前に英語圏で話題になっていたのですが、英国のデザインエージェンシー、Clearleft社はBrowser SupportというページでWebブラウザに対する考え方、ポリシーを掲げています。興味深いのは、冒頭にある
We don’t base our browser support on specific browser names and numbers. Instead, our support policy is based on the capabilities of those browsers.
当社のブラウザサポートは、特定のブラウザの種類やバージョンに基づきません。その代わりに、当社のサポートポリシーは、ブラウザで利用できる機能に基づきます。
というくだりです。これはまさにWeb標準が業界に根付き、ブラウザエンジン間の相互運用性が高まったからこそ有効、かつ必要とされる考え方と私には感じられます。フロントエンドの設計時はさておき、個別ページの実装段階においては、もはや多くのブラウザで目視確認する意義は少なく、簡略化が可能でしょう。
誤解していただきたくないのですが、私は何もWebにおけるビジュアルデザインを軽視してよいとか、軽視すべきなどと考えているわけではありません。ビジュアルデザインによってもたらされる情緒的価値は、コンテンツの機能的価値と同等に重要です。
しかし、ことWebにおいては、たとえば画面表示を介さずともコンテンツを届けることが可能です。また、Webページをどう表示させるかは常にユーザーに主権があり、文字サイズや前景色/背景色の組み合わせを変えたうえで利用するといったことは一般化しています。そのような、他と比べ圧倒的にアクセシブルなメディア向けのコンテンツについて、検品にかかるコストの内訳をどう時代に最適化させるかが肝要と捉えています。
そういうわけで、来る2025年に向けブラウザチェックを再考中です。方針を明確にでき次第、改めてお知らせいたします。
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