インターネット戦略の実行 -現状の把握 -
インターネット戦略を企画・実行フェーズに移すための最終段階までたどり着きました。前段の定義づけによって「本来あるべき姿」を描き出しました。このフェーズでは、現状の事実の把握を捉えます。この「現状の把握」はプロジェクト全体の品質を左右する最もクリティカルな部分です。なぜならば、このふたつのギャップを埋める作業が、インターネット戦略の役割に他ならないからです。ここで誤った判断をしてしまえば、ギャップの捉え方を誤り、今後発生する企画・実行フェーズは全て誤った情報のもとに実施されることになりますので、当然良い結果は生まれないことはご理解いただけると思います。
現状を把握する手法は、数多く存在します。また、各社さまざまな特殊方法論が存在すると思います。ここではシックスシグマの手法を一部導入して解説に当たります。なぜシックスシグマの手法なのか?科学的かつ論理的だという点で説得力があります。また、手法が明解で作業が難しくなく誰もが理解できる点。現状を把握するためのツールが用意されており、不明なときはツールが把握への支援を実施する点。その後、ギャップ分析を行なう際、またインターネット戦略に何を中心に据えるべきかという段階に入っても、それぞれ強力な支援ツールや手法が用意されている点です。
捉えるべき項目は、下記の図のようにシンプルです。では早速ひとつひとつ解説していきましょう。
(1)コア・プロセスを把握する
コア・プロセスは、顧客に製品、サービス、サポート、情報といった価値を提供する一連の作業のことです。通常、さまざまな部署や機能が関係してきますが極めて単純です。例えば下記の図(プロセスマップ)によって表現してみましょう。
インターネット戦略にどのような影響を与えるか?
コア・プロセスの把握は、インターネット戦略に大きな影響を及ぼします。
- 現状のコア・プロセスでカットできるところは削除しますので、ビジネスプロセス自体を変えることが可能です。これは、大きな効果と効率をもたらす可能性を大いに秘めています。例えば、電話受付により注文を取るプロセスが現状にあれば、インターネットではフォームにより24時間自動で受付可能にします。
- Face to Faceでやっているプロセスでしかも機械的作業であれば、デジタルのバーチャル世界で作業を変換してしまうことが可能です。
- 現状のコア・プロセスを把握することによって、新たな市場浸透の方法論、または新たな市場開発の方法論のアイデアを創出します。
参考:優秀な営業マンのプロセスをトレースする
どこの企業にも1人や2人、優秀な営業マンはいるはずです。そうした営業マンは必ず顧客の心を射止める武器を持っているはずです。それは独自の販促資料のようなものである場合もあれば、セールストークという形のないものである場合もあるでしょう。しかし、そうした武器は多くの場合、俗人的なもので、そうした辣腕営業マンが関わると売れるが、他の営業マンでは売れないということにもつながっているはずです。
当然、企業としてそれではいけません。他の営業マンにも売れるよう、優秀な営業マンの武器を標準化する必要があります。営業支援を目的としたWebサイトなら、そうした優秀な営業マンにヒアリングを行ない、彼らのプロセスをトレースすることで、顧客の心を射止めるために何が必要なのかが見えてくるでしょう。
(2)主要顧客は誰か?
主要顧客の捉え方にはいくつかの視点がありますが、ここでは、インターネット戦略のミッションや目的、スコープで定義された範囲における中心顧客と定義しましょう。特に主要顧客の20%はどのような特性を持った顧客なのかを捉えることが極めて重要になります。売り上げの大部分は、ごく一部の大手顧客や主要ユーザによってもたらされるという、事実をしっかり把握しましょう。
下記は、パレート図です。パレートの法則によれば、全体の20%の顧客が全体売り上げの80%を占めるというものです。経営層であればこの法則は誰でも理解できるほど的を射ています。顧客に直接的付加価値をもたらす活動をする場合、この20%の主要顧客をしっかり押さえることが重要です。
インターネット戦略にどのような影響を与えるか?
主要顧客の把握は、インターネット戦略に大きな影響を及ぼします。
上流における企業戦略、マーケティング戦略は、あくまで企業の視点です。インターネット戦略におけるミッション等はそれらの影響を受けていますので、これも企業の視点と言えます。しかし、インターネット戦略が実行ベースまでたどり着くと、これらを前提に顧客の視点に変換することが重要な作業になります。この時、主要顧客のセグメンテーションがうまくいくほど、あらゆる表現方法が明確に打ち出され、インターネット戦略はより高い成功率へとステップアップするのです。
参考:主要顧客は必ずしも購買額上位の顧客ではない
上記では、主要顧客の重要性を説明するため、パレート図を用いて説明しましたが、実は、主要顧客とは必ずしも現在の購買額が上位の顧客であるとは限りません。顧客生涯価値(LTV)という言葉がありますが、長期的な視点で捉えた場合には現在の購買額上位の顧客が必ずしも長期にわたって利益をもたらしてくれる顧客とは限らないからです。市場は常に変化しています。かつてメインフレームでコンピューター市場をほぼ独占していたIBMは、DECなどのミニコンピューターを製造する企業に市場を奪われ、危機に瀕したことがあります。そして、IBMの危機は、IBMにディスクドライブを供給していた企業にとっても危機となり多くの企業が倒産しました。それらの企業にとってはIBMは主要顧客であり、彼らは主要顧客を重視したが故に危機を迎えたのです。どんな企業もこうした価値連鎖の中にあり、市場変化により、同じ価値連鎖の中にある企業が危機に瀕すれば、その影響をこうむります。この場合、既存の主要顧客を重視すればするほど、危機が自らにふりかかる可能性は高くなるのです。この意味で主要顧客とは必ずしも購買額上位の顧客ではありませんし、むしろ、次の時代の利益を生み出すだろう戦略的な顧客こそが真の主要顧客である場合もあります。
(3)サービス基準は何か?
顧客に製品、サービス、サポート、情報といった価値を提供するにあたり、自社のサービス基準は何かを捉えることです。例えば、スピード、コスト、重量、テイスト…。これら考えられるサービス基準を整理するのです。
インターネット戦略にどのような影響を与えるか?
サービス基準の把握は、インターネット戦略に大きな影響を及ぼします。
サービス基準は顧客に対する価値の提供方法を意味します。インターネット戦略を実行する上で、これらを把握しておくことは、「より高い価値を提供する方法はどこか?」また、「守らなければならないサービス基準は何か?」をあらかじめ把握し定義することを可能にします。それによって上流の企業戦略、マーケティング戦略との同期を取ることも可能にします。
また、後で説明する顧客要求事項とのギャップを把握する場合にも有効な資料となり、改善すべき項目の特定をすることも可能にします。
(4)VOCは何か?
VOCは、「Voice of the Customer」の略であり、別名「顧客の声システム」と言われます。われわれが最も重要視している項目のひとつです。このVOCをしっかり捉えようと本気で考える企業が存在するならば、インターネット戦略は経営革新ツールとして変革を遂げることも可能であると豪語します。なぜか?製品/商品、あるいはサービスを顧客が購入するという行為は、顧客が求める価値に自社が応じることができて選ばれた結果ということです。しかし、全てに関して満足しているわけではないという事実があります。そこにこそ経営革新する大きなヒントが潜んでいるのです。また、企業戦略、マーケティング戦略は顧客の価値の変化に敏感に反応するという側面を持っています。VOCを捉える価値は膨大です。またVOCを捉えるツールとしてインターネットは他に類を見ないほど強力です。なぜならば、結果を即時データとして入手できるからです。VOCを捉える方法論はインターネットには多数あります。しかし、この全容を説明するために多くの紙面を割く必要があります。ここでは代表的な例をご紹介するにとどめます。
画像は、品質機能展開(QFD)と言われるツールです。インターネットのツールで入手したデータをもとに自社の製品/商品、あるいはサービスのどの部分を改善すべきかを特定(CTQ)するためのツールです。
インターネット戦略にどのような影響を与えるか?
VOCを捉えることは、インターネット戦略に大きな影響を及ぼすのみならず、経営革新にも影響を与えます。
- インターネット戦略上で行なわれるVOC戦術は、生の声をリアルタイムに経営の最上流に伝え、精度の良いクロースド・ループ・システムが稼働します。これは、企業存続に関わる重要な任務を受け持つことを意味します。
- 自社製品の問題点をリアルタイムに把握でき、改善部分をスピーディーにインターネットを通して顧客にフィードバックすることを可能にします。
- 顧客が求めている情報をリアルタイムに把握でき、改善を可能にします。
(5)ユーザーのアウトプット要求、サービス要求は何か?
VOCは、「Voice of the Customer」によって、最終的には何を獲得すべきでしょうか。それは顧客の「アウトプット要求」であり、「サービス要求」の特定にあります。このふたつの相違点に関して解説します。
- アウトプット要求
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顧客視点で捉えると、最終製品/商品あるいはサービスを受け取るそのものとここでは定義します。
- サービス要求
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顧客視点で捉えると、最終製品/商品あるいはサービスを受け取るまでの間に、どのような扱いを受け、どのように対応されたかというサービスのプロセスに関わるものと、ここでは定義します。
例)例えば、東京からシアトル経由でニューヨークに飛行機で出国したと仮定します。顧客のアウトプット要求は、ニューヨークに無事に到着することになります。この時、出国手続きで1時間も待たされたり、乗り継ぎ便が定刻より大幅に遅れシアトルで10時間も待たされたりすると、アウトプット要求は満たされていてもサービス要求は満たされていないということになります。
アウトプット要求/サービス要求を捉えることは、インターネット戦略にどのような影響を与えるか?
インターネット戦略に大きな影響を及ぼします。
まず、顧客のトレンドは、常に変化するという前提が非常に大切です。昨日まで満足していたものも今日は不満足という事態もありえます。その主要因は社会変動、競合製品との相対的比較、顧客のサイコグラフィックの変化によるものと実に複雑です。大切なことは、インターネット戦略を実行する際、これらの情報を常に入手できるように、基本設計に組み込んでおくことです。そして、これらの情報をデータマイニングし、経営の最上流の意思決定機関にフィードバックすることは、企業経営の生命線のひとつである「クローズド・ループ・システム」の稼働を誤りなく遂行する大切な手段なのです。
参考:顧客には用事がある(そして、それは2種類ある)
多くの企業は、市場のセグメンテーションを考える際、属性でのセグメンテーションを考えがちです。しかし、マーケターがマーケティング戦略を考える際、属性でのセグメンテーションはほとんど意味を持ちません。顧客とは無関係な製品属性によるセグメンテーションはもちろんのこと、顧客ベースでも、年齢、未既婚、職業、居住エリアなどの基本属性によるセグメンテーションでは、売上分析を行なう場合なら有効でも、マーケターが仮説を立てる際などにはほとんど役立ちません。どんなプロモーションを行なえばいいか、製品にどんな改良を加えれば成果につながるのか。属性によるセグメンテーション~ターゲット選定からは何のヒントも得られないでしょう。それはB2B企業の場合の、業種や会社規模などのセグメンテーションでも同様です。
顧客のニーズを知るには、顧客を属性ではなく、顧客の状況に応じた用事でセグメント化することが必要です。なぜなら、顧客は自分の用事を済ませるために適切な商品を雇うのですから。上の例なら、顧客には「ニューヨークに行く」という用事があります。また、その主となる用事にともない、「ニューヨーク行きのチケットを購入する」「渡航中の中途半端な時間をやりすごす」などの用事も発生するでしょう。また、同じ「ニューヨークに行く」用事を持った顧客でも、ビジネスで行くのか、観光で行くのかにより、それに付随した用事は異なってくるはずです(「機内では商談に備えて休息を取りたい」「時間をつぶせるサービスがほしい」など)。どうでしょうか?顧客の用事をベースに考えると、必要なマーケティング施策も考えやすくなるのではないでしょうか?そして、顧客の用事を正しく捉えない限り、商品は売れないのです。なぜなら、顧客は用もないのに商品を買ったりしないのですから。同様に用のないWebサイトにユーザーは訪れません。Webサイトのターゲット選定もユーザーの用事をベースに考えることが重要になります。
(6)競合とのギャップは何か?
顧客が自社の製品/商品あるいはサービスを選ぶ主要因は、それ自体が顧客自身の価値観と共有する部分があるか、あるいは、競合と比較して相対的に価値観が近いかのどちらかです。中には、自社のサービスに満足ではなくても、競合より相対的に優れていれば、購入する場合が高いという結果が想定されます。このように競合を捉えることは、極めて重要な要素であることは言うまでもありません。
今まで自社に対して分析していた項目(コア・プロセス→顧客要求)に関してマトリックスで比較すると自社の強み、弱みを捉えることが可能です。また、競合の選び方は、同規模の企業だけではなく、あくまでワールドクラス(業界トップ)と比較することをお勧めします。なぜならば、企業の本質は、「ワールドクラスを狙う」という前提のもとにこのコーナーはここまでたどり着いているからです。
競合とのギャップを捉えることは、インターネット戦略にどのような影響を与えるか?
インターネット戦略に大きな影響を及ぼします。
企業はその「独自性」によって存続しようとしています。しかし、今日それだけでは生き延びることが不可能です。時代は、(マーケティング戦略で解説したように)市場適合戦略から、競争対抗戦略を実行することを余儀なくさせています。
インターネット戦略を実行する上で、競合より不足している部分を補い、独自性を強調させる手段は数多く存在しているのです。
(7)市場動向は何か?
市場動向の捉え方は、企業によって様々です。今の時点をチャンスと見るか、ピンチと見るかは企業における経営環境により大きく左右されます。また、独特の解釈をする場合もあります。この判断はわれわれがすべきものではなく、企業自身が判断する項目と思われますので、説明を割愛させていただきます。
ただし、市場動向の捉え方はインターネット戦略を実行する上で極めて重要な影響があると思われます。構築企業にどのように捉えているかを明確に伝える必要があると認識します。
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